夜警/MOJO
 
ものの数十秒で立ち上がり、再び化粧室の扉の前に立った。濡れティッシュで丁重にドアノブを拭いてからなかに入り、しばらくすると不機嫌な貌で出てくる。ソファーに座る。再び立ち上がり、ドアノブを拭く。なかに入り出てくる。診察室から呼びだされるまで、女は延々とその行為を繰り返した。
 女が診察室に入ると、私は初老の男に目を移してみた。しかし禍々しいことが起きてしまったあとに、残された者同士が共有する、あの奇妙な連帯感はそこになかった。男の視線の先は四つに折りたたんだスポーツ新聞だったが、記事の内容などもう上の空であるに違いない。見てはいけないものを見てしまったことへの恐怖感。それが起きたすぐ近くに自分が居
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