夜警/MOJO
入れてきた。文庫は偏愛する作家の短編集やエッセイで、ハードカバーはこれから診せに行く医師の著作だった。半年ほどまえに、時たま訪れる古本屋の、心の健康、なる一角で見覚えのある著者名を見つけ、手にとり著者紹介の頁を確かめると、私が二週間に一度通院する医師の顔写真があった。しかし私は未だにこの本を読む気にはなれない。
待合室の扉を開けると、くの字型のソファーには初老の男が座っていてた。スポーツ新聞を読んでいる。私は男から離れたところに座った。バロック調のピアノ曲に耳を傾けていると、化粧室の扉が開き、若い女が出てきた。表情を窺うと、明らかに苛々しているのが見てとれる。
女はソファーに座ったが、もの
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