海/葉leaf
 
はじまりのない海は、飽くことなく月光を滅ぼし続けた。海の窓はいつでも閉ざされていて、裂き傷のようなものが表面をいろどるだけだ。海の上では乾いた街の幻影が旋転していて、槍のような水柱を呼ぶ。街は律動するきれはしからできていて、きれはしは斜光のいきれで粘性を増してゆく。街の地面はことばで埋め尽くされていて、人の視線は的確に反意語を射抜く。人が街へと踏みこんで路地を下ってゆくと、人の中の人は海へと紛れこんでしまう。沸きたち、躍りこむ海のかたわれに逼られて、人の中の人は――。

水は海をうしない続けている。水はむしろ海の中の海へと還流してゆく。海の中の海では、至るところに水の形が甲虫の標本のように焼き
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