ある旅立ち/MOJO
ナの休憩室で夜を明かしてもよいと考えていた。
小さなビルの地下にあるカウンター席だけの狭いバーに、客はネリオひとりだけだった。ママのアケミとネリオは黒いデコラ貼りのカウンターを挟んで九十年代の思い出について語り合っていた。アケミは九十年代が花だったと言った。ネリオはその時代には思い出したくないことが多かった。ネリオの膝のうえには旧いギターが置かれている。ネリオは時おりそれを爪弾いた。アケミは話の合間にアイスピックで氷の塊を砕いている。
カウンターに置かれた水割りのグラスがからんと音をたてた。解けかけた氷が崩れたのだ。するとグラスの少しうえの空間に白いもやもやした霧のようなものがたちこめ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)