ある旅立ち/MOJO
 
。ネリオはそれをじっと見つめた。氷はアケミの店のものと違い市販の四角いものだった。ネリオは氷の角に丸みがついてゆく様を観察するかのように見つめた。スコッチと少しづす溶ける水が混じりあう。見つめていると、それは粘度を帯びてくるようだった。
 しかしジルは現われなかった。以来数ヶ月、ネリオはその店に通ったが、ジルがネリオのまえに姿を現すことはなかった。

 ネリオはアケミのバーにも姿を見せなくなった。常連客たちは暫らくの間ネリオとジルの噂話をしたが、数ヶ月すると誰も二人を話題にしなくなった。半年も立つと、妖精はおろか、ネリオの存在そのものが人々の記憶から消えてしまったかのようであった。

 
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