ある旅立ち/MOJO
 
る。ネリオはカウンターの端の椅子に座わり、ドライマティー二を注文した。
 女性ボーカルのジャズスタンダードが流れている。壁には小劇団の公演を告げるポスターが貼られている。ネリオはそのポスターに記されている日程や役者の名前を意味もなく目で追った。
 三杯目のマティーニを注文するときに、ネリオは思いきってバーテンダーに訊いてみた。
「あの、ここに妖精が現われると聴いて来てみたのですが……」
「ああ、グラスの氷が鳴ると現われる妖精のことですね?」
「そう、ジルのことです。マティーニはやめにして、スコッチをロックでもらえますか?」
 バーテンダーがスコッチを注いだグラスをカウンターに置いた。ネ
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