ある旅立ち/MOJO
って狸か狐が化けてるんだってさ。あのジルっていうのも丹沢あたりの雌狐なんじゃないの?」
どの言葉もネリオには響かなかった。しかしこんなことを言った者があった。
「おれ、このあいだ別のバーであの妖精を見たよ」
ネリオはその男からそのときの様子を詳しく聞きだした。
その店はネリオがあまり馴染まない繁華街にあった。
「いらっしゃいませ」
糊のきいた白いワイシャツに黒い蝶ネクタイを着けた中年の男が、カウンターの内側からよく通る声で言った。白いものが混じった髪をきちっとなでつけ、鼻の下に髭を生やしている。カウンターには若い女の二人ずれと仕立ての良いスーツを着けた壮年の男が座っている。
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