ある旅立ち/MOJO
 
オのグラスが鳴ってもジルは姿を現さなくなった。それでもネリオはアケミのバーに通った。ネリオは氷が崩れて小さな音をたてるまでじっとカウンターのうえのグラスを見つめていた。しかしジルは現われない。グラスを飲み干し、アケミに代わりをつくってもらい、カウンターに置き耳を澄ます。常連客たちはそんなネリオを口々に慰めた。
「なあネリオ、もう忘れたらどうだい? あんた、あの妖精が来ているときは楽しそうだったけど、日に日に痩せていってちょっと心配だったよ」
「そうそう、それにクマ郎のこと聞いてるだろ? あいつ、行方不明なんだってさ。妖精に拐されたってもっぱらの噂だぜ」
「うちの婆さんが言ってたけど、妖精って
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