太一の成人式/MOJO
 
よく懐いた。太一がトイレに行くと付いてきて、出てくるまで扉の前で待った。時おり蝉やバッタを捕まえてきて太一のまえにぽとりと落とした。
 ある日、酷い発作が太一を襲った。そのときは病院に運ばれたまま入院し、太一は数日間生死の境を彷徨った。呼吸器をつけたままの状態で意識が遠のいては戻る。その繰り返しのさなかに太一は同じ夢を見つづけた。
 ススキと泡立ち草が繁る野原の真ん中に駅がある。その駅のプラットホームにぽつんと一人で立っている。列車が着いて扉が開く。列車に乗りこみ空席に座る。すると車掌がやってきて切符を見せろと言う。車掌の顔は祖母が貰ってきた猫である。切符はないと応えると次の駅で降りろと言う。
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