春の狼/蒸発王
春の朧には
狼の遠吠えが聞こえる
黄身を崩した
蒼い朧月に
マンションの屋上から
屋根の上から
銭湯の煙突から
ああほら
またも
遠吠えが聞こえる
思い出させないでくれ
若葉の綻ぶ
柳の下で
彼が私に問うたのを
(知ってる?)
何を
(春は人が狼に帰る時期なんだよ)
(月に帰る時期なんだよ)
かぐや姫かよ
(君だって)
五月蝿い
(僕だって)
黙れ
しばらくして
彼の家から遠吠えが聞こえると
彼は街から姿を消して
残された私は
今夜も
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