春の狼/蒸発王
夜も膝を抱えている
昨今
激しく
皮膚が泡立つのだ
蒼い月光に
脳細胞が追いたてられるのだ
渇きに水を求めても
満たされないのだ
(君だっていつか)
言わないでくれ
これは
畏怖だ
(狼に)
後生だ
呼ばないでくれ
応えてしまう
ノドの乾きを
遠吠えに変えて
返事を
(帰るんだよ)
目にしたのは
血の
赤
唇を噛みきって
今夜も耐え忍んだ
鈍い朝焼けに
母を起こしに行くと
レースのカーテンが朝風に揺れ
寝床に数本の獣毛が落ちているだけだった
窓が零す暁に
目を細める
もはや
街に人の数は少ない
皆
帰ってしまった
あなたの街はどうだろうか
そろそろ
帰りたがる時期になるだろうか
春に
なるだろうか
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