珈琲屋のはなし/たちばなまこと
 
吹き込まれるひとときだ。お湯がひと通り行き渡ると20秒蒸らす。そしてまた点滴が始まる。計量カップにポタポタとしたたるセピア色。彼は豆を褒めるのが上手で、豆はますます香りを放出して店内の人々を魅了する。中心から外に向かって渦を描いてまた中心に戻る細い湯の線。豆のドームはネルからはみ出して盛り上がり、マフィンのようになる。豆の余計な癖を出さないようにタイミング良くネルは外される。液体は一度鍋に入れて温め直す。「今日のフレンチは最高だよ。」って表面が豆の油分で黒光りした液体が器の中ゆらゆら揺れながら私の前に運ばれるる。初めは砂糖もミルクも入れない。添えられたスプーンで表面を掬って落とすと、油分が琥珀の宝
[次のページ]
戻る   Point(3)