地形図に隠された地図/殿岡秀秋
に乗ると地図は風景のように後ろに遠ざかっていく。人々の匂いはないが、人の影の気配はある。終点にきて少し上りなり、地図の上に出る。
そこは入ったときの地形図とは違う。広い白地図の街だ。ここがおそらく隠されていた地図の場所だ。それはかつてぼくが見慣れた商店や家々が記されている。ぼくが幼い日にすごした記憶の中の街だ。その街は時とともに成長し、今ではすっかり容貌が変わってしまっている。しかし、この地図では昔のままに残されている。ぼくが怪我をした銭湯があり、そのときに治療した医院があり、ぼくにパンをくれたおばあさんが店番をするパン屋があって細い路地に入る。それをすすむと曇りガラスのような壁に突き当たる
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