小詩集「書置き」(四十一〜五十)/たもつ
 

キオスクで働く兄は
右足と左足を取り違えたまま
勤めに行ってしまった
右岸で寝ている人の夢の中で
左岸の人は今日も忙しい
あと何日
自分は生きるのだろうか

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男は、ムラオカです、
とだけ名乗り
金属がより金属に近づこうと
静かに脱皮を続ける
かの口調で
立方体の話をする
別れ際、男は
本当はスズキだったのです、
と言ってそれから
何事も無かったかのように
春の花を満載した自転車に
ひかれた

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三時間目図工の授業では
遊園地の絵を描く課題が与えられた
級友たちが様々な形の乗り物を
色彩豊かに塗りつぶしていく中
少年だけはみすぼら
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