小詩集「書置き」(四十一〜五十)/たもつ
 
方に暮れている
小さい頃によく遊んだマリコちゃんに
会いに行きたいのだと言う
マリコちゃんにどうぞ、と
グレープフルーツを差し出すと
女性は嬉しそうに微笑む
どこまでが思い出で
どこまでが女性自身なのか
すでに見分けはつかなくなってた

+

ハラメシの炊き上がった匂いがする
一年に一度だけ食べられるハラメシは
特段美味しい、ということもないが
風習とはそういうものだ
ハラメシを前に
家族皆で手を合わせる
そのことの意味を誰も知らないが
祈りとはそういうものだ
この日ばかりは
食後のゲップは禁忌である

+

右手と左手は
朝から機嫌が悪い

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