首筋の紅/黒田康之
 
をふわりふわりと躍らせながら
何も事情を知らせない女は
何も事情を知らない私の前を通り過ぎる

夏が去って
私は一つ栗の実を食べた
どこで生まれたかは知らない栗だ
それが僕の暗闇にすんなりと沈み込んでいく
毎日包まっていたタオルケットを
汗にまみれた
薄青いタオルケットをたたみながら
幾重にも幾重にもたたみながら
夏を仕舞う毎日である
熱を帯びた私の体温を
何日も何日も抱いていたせいか
タオルケットはいつまでも熱くて
暗闇にはそう簡単に収まりそうもないのだ

あれはそうだ いつか見た女だ
確かにあの女だ
以前より髪は黒くなっているけれど
日に焼けたふくよか
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