組詩「二宮」/岡部淳太郎
はないはずだ。ここまで来て、役場の前のきつい坂を登って、この山を登って、一度は俯瞰してみるべきなのだ。逆流する血液の愛撫が、まだ見ぬ疲労を予感して、そのために整えられる暇もなく呼吸が早合点したとしても、おまえはここを登るべきなのだ。登るべきなのだ。登れ!)
私たちは
ゆっくりと登った
のそり のそり と
山は黙っていて
のそり のそり と
山は少しずつ歩いている
(目には見えないだろうが)
私たちの登る足下で
おお 山が歩いていなさる
やがてその片方だけの乳房のような山に
脚の弱った男は押しつぶされるだろうか
(もう片方あればよかったのに!)
人の思い出などという
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