組詩「二宮」/岡部淳太郎
翼の鳥も、みんながいっせいに空飛ぶ機械になりたがっている。それらの観念と仲良くなっておいた方が、後になってあなたの身のためですよ、それが出来ないのならば、ここを去ることです。そんな忠告が風に乗って、葛川の、押切川の流れに乗って、吐き出されてくるが、おまえはただ呆然としている(それだけが、おまえの得意技なのだ)。脚の弱った男よ、あえてふるさとを、思い出を、巡ってきたことに疲れたか。疲れたならば、眠れ。その眠りの中に、旅の果てのように再び思い出が侵略してきても、ひたすらに眠れ。かたくなに眠れ。
そして
ふるさとは存在しない
そして
思い出は存在しない
ただ
脚の弱った男の
ひとりよが
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