組詩「二宮」/岡部淳太郎
 
として、語れ。そして、思い出の、その最初の暗さへとはばたくのだ。

(とりつかれ)
(とり 憑かれ)
(思い出の蓄積によって生じた疲労のゆえに)
(脚の弱った男は思い出を受信する)

私は見た。冷凍されることを拒む熱い生の脈動が、小さな枠の中で、せいいっぱいに騒ぎ立てるのを。外の者は誰もそれを咎めだてせず、余裕の笑顔で彼等を見守っているのだが。

ある者は、貸しレコードの古い溝の中に夏の湿気を降り積もらせ、借金取りから逃げる貧しい者のように、談笑の一瞬後には消え失せ、

ある者は、自らの力が春または夏の効果によるものであることを自覚せずに、狭い庭の中で王の気分を味わいながら、
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