見えていてすでに海は/藤原 実
 
たのだ。
「ばらばらになっちゃった」「クラゲみたいだ」船のドクターはしばらくその破片を観察していたが、やがて静かに「ご臨終です」と言った。
その瞬間みんなは言い様のない虚脱感に襲われた。そのため<詩人>がふらふらとその場を離れてゆくのに誰も気づかなかった。


もうオレはおしまいだ、と<詩人>は甲板を歩きながら思っていた。自分のコトバに逃亡されたあげくに、あんなもろいコトバを綴っていたことをよりによって批評家に暴かれてしまったのだ。詩人として生きられないなら、せめて言葉の海に溺れて死んでゆこう。そういえば、

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      私の墓は、私のことばであれば充分。
      
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