見えていてすでに海は/藤原 実
いつ>は水槽の中をいかにも不器用に泳いでいた。
<批評家(2)>は水槽に手を入れて「ちょっと外に出して話を聞いてみよう」
といって<あいつ>を掴まえようとするが掴まえることが出来ない。「あっ。こいつ意外にすばしっこいぞ。おい、そっちに追い込むから掴まえてくれ」
「こんな手荒なことはわたしの美学に反するが・・・」と<批評家(1)>は腕まくりをして待ちかまえると「それっ!おっ、おっ、やった掴まえた!」
<詩人>は「乱暴はやめてくれ」と力無く呟くが手出しはしない。<あいつ>が水槽から引き出されようとしたとき「あっ」と一同は息をのんだ。<あいつ>は<批評家>(1)(2)の指からこぼれ落ちていったの
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