見えていてすでに海は/藤原 実
ることはできない世界だ。それに----と<明海>は出航前に見せられた<あいつ>の写真を思い出していた。それは出版される前の<詩人>の手書きの原稿のコピーだったのだが----あんな非力な一行では領海を越えてゆくことなど出来はしないだろう。せめて、
てふてふが一匹韃靼海峡を渡つて行つた。
(**注)
というほどの水際だった一行なら可能性もあるだろうが。
そのとき、「見つかったぞ!」という声がした。
紫陽花と鸚鵡(おうむ)と古き教会とふるさともまたエピローグかな
・・・引き揚げられた<あいつ
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