見えていてすでに海は/藤原 実
元」詩人、と言うべきか----彼は砂の城を造っている。
何かに取りつかれたように。あわれだ。詩人でなくなっても何かを造らずにはいられないのだろう。
もし彼がほんとうの詩人だったら、今すぐにでもこの砂漠を海水で満たして、私たちもここから脱出できるのだろうが・・・。
けれども私たちはもうすぐ死ぬだろう。それは覚悟している。だが希望を棄てたわけじゃない。遥か彼方のどこかで一人のほんとうの詩人が生まれて、世界を再び海で覆ってくれることがないともかぎらない。なに?夢物語だって?そうかな。でも私には確信があるんだよ。海で死んだ人間がみんなかもめになる、という言い伝えがあるように、たとえ砂に埋もれ
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