霧の様な死あるいはナルシシズムについて/立原道造を読む/渡邉建志
 
った
――あなたの声は 僕のためにはひびかなかつた、

彼の愛の歌は、いったいどういう事情があったのか読者にわからなかったとしても、そう、内容がよくわからなくても、その甘い雰囲気に読者が自分の体験を重ねてしまうことで完成してしまうような気がする。



■優しき歌 (部分)

私は いま おまへを抱きながら
閉ぢられたおまへのうすい瞼に あの日を読むやうにおもひうかべる

眼は読むためにあるのだが、その眼が閉じられた場所(瞼)は、恋人によって逆に読まれる場所になっている。そのことの美しさ。「おまへ」の、瞼はうすく、とても美しいのだろう。



■卑怯の歌
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