入沢康夫(「現在詩」の始まり)/岡部淳太郎
えてくる。そうすると、第一連最後の「星が降って 足許で はじけた」という一行も、日本の近代詩にあふれていたまっとうな抒情が砕け散るさまを表しているようにも読める。
『倖せ それとも不倖せ』には実に多彩な詩篇が収められており、ここに紹介した三篇だけではとてもその面白さを伝え切ることが出来ない。ある意味ではデビュー作として完璧な詩集であるが、入沢康夫はここで獲得した豊穣さに安住することなく、次から次へと独自の詩の世界を構築してゆく。ここではとてもそれらの詩業を紹介するだけの余裕はないが、あえてひと言いえば、『ランゲルハンス氏の島』(一九六二年)の擬物語詩という性格と『季節についての試論』(一九六五
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