入沢康夫(「現在詩」の始まり)/岡部淳太郎
 
ら押し出された絵具 そのままに
まっ黒に光る七つの河にそって
僕は歩いた 星が降って
星が降って 足許で はじけた

所で僕がかかえていたのは
新聞紙につつんだ干物のにしんだった
干物のにしんだった にしんだった

(「夜」全行 原典では三回出てくる「にしん」すべてにに傍点)}

 入沢康夫の多様さを知ってもらうために、あえて傾向の違う二篇を引いた。
 「鴉」は、一読して折り目正しい抒情詩のように見える。これはこれで立派なものだし、鴉に託して文明社会を批判的に捉える思想性のようなものも表れていて面白い。だが、もう一方の「夜」はこの詩人の本領発揮である。何故「四十番の一」や「
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