入沢康夫(「現在詩」の始まり)/岡部淳太郎
 
える。
 いったいどれを選ぼうか迷ってしまうが、『倖せ それとも不倖せ』からあと二篇引用してみよう。


{引用=広場にとんでいって
日がな尖塔の上に蹲っておれば
そこぬけに青い空の下で
市がさびれていくのが たのしいのだ
街がくずれていくのが うれしいのだ
やがては 異端の血が流れついて
再びまちが立てられようとも
日がな尖塔の上に蹲っておれば
(ああ そのような 幾百万年)
押さえ切れないほど うれしいのだ

(「鴉」全行)


彼女の住所は 四十番の一だった
所で僕は四十番の二へ出かけていったのだ
四十番の二には 片輪の猿がすんでいた
チューヴから押
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