入沢康夫(「現在詩」の始まり)/岡部淳太郎
 
、燐光を放つ熱帯魚さながらに、闇の中へと泳ぎ去つた。

(「牛の首のある六つの情景」1)}

 詩集冒頭の「牛の首のある六つの情景」の書き出しの部分だが、ここですでに詩集全体のモチーフが要約されているように見える(「わが出雲」もそうだが、入沢康夫の詩集には、このように冒頭で全体を予告するような仕掛けが施されているものが多いような気がする)。謎めいた「牛の首」というイメージよりも、全体を通して必ず「わたしたち、わたし」と二重になっている人称代名詞に、この詩集を解く鍵が隠されているような気がするのだが、悪夢のような異様な言葉の群れの中で、ただ迷いつづけることしか、いまの僕には出来ない。これは物
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