早春歌/芳賀梨花子
の隣の席は座る人がいるの。だから座らないでください。外気温が下がったのか、白く曇る窓に消えかけてゆく稜線。私はそれを守らなくてはと必死になる。でもそのうち抵抗むなしく稜線は消えた。湘南電車と同じ色の電車と、私は谷川岳に飲み込まれたんだ。
トンネルを越えるとそこは雪国なのだろうか。彼は雪国ではなくどこかに掘った雪洞の中にいる。雪洞の中で眠っているんだ。
龍ちゃん、龍ちゃん、自転車に乗れるようになったよ。補助輪取れたよ。夕方がわたしたちの楽園だった。石蹴りやろうよ。やだよ。ゴム段しようよ。ゴム段は女の遊び。だったら、なにして遊ぶ?だからもう女とは遊ばないの。意地悪、意地悪、龍ちゃんの意地悪
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