Saudade./芳賀梨花子
 
さな国で
入国審査がやけに厳しかった
わたしは疲労していて
宿屋のベッドで眠りに落ちる
混沌と眠り混沌と覚醒し
まるで夢が擦り抜けていくような
危うさを感じたので
せめて追憶だけはと
ポケットにしまいこんだ
ある程度にすぎないのかもしれないが
それなりの時間を眠りの底で過ごしたのだろう
わたしは無性に腹がすいた
なにか腹に入れようと
宿屋をあとにする
街は人影もまばらで
やっと見つけた婆さんに
うまいものを食えるめしやはないかと
尋ねてみた
婆さんは愛想笑いもせず
ましてや答えもせずいってしまった
どうやら、ここに暮らす人々には
風は優しくないらしい

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