ムーンライトながらノート/渡邉建志
 
また発車したところである。横浜で乗った客が電車の中を歩いている後ろについて、電車の中を歩く。車両間の通路部分には、相変わらず誰もいない。どうやらやはり、通路に乗車することは禁じられているようだ、と悟る。本格的に。さあ参った。とりあえず近くのトイレに入って考える。どうしよう。このまま乗り続けて大垣まで行くと、もし仮にばれたときに無賃電車と疑われ、3倍の値段を取られかねない。しかし僕には無賃の意図はなくて、18切符の一日分を切られるつもりで乗っているのである。李下の冠瓜田の靴というヤツであって、ここはトイレにずっと隠れ続けるのはまずい。ここは正々堂々と通路に出て、車掌を待ち構え、いかにも下痢っぽい顔を
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