ムーンライトながらノート/渡邉建志
 
かやっぱり怪しいか。トイレっぷりをアピールしようとズボンを脱ぎつつ、こんこんとドアをたたきなおす。しばらくしてもう一度、こんこんとノックの音がする。しつこい車掌だ。出てくるまで続けるのだろうか、それともこじ開けるのだろうか、こっちがズボンを脱いでいようとパンツを脱いでいようとかまわずあけるのだろうか、と戦闘的に考える。考えていると、ドアの向こうで遠くに歩み去っていく音がする。どうやら客だったらしい。すると、良心の呵責がまたはじまる。僕はJRのみならずJRの客にも迷惑をかけているらしい。むしろ客のほうにより迷惑をかけている。これはよくない。

僕はトイレから出る。おりしも電車は横浜に着いて、また
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