ムーンライトながらノート/渡邉建志
 
ドキドキしていた。正面のホールまで走って行くと、そこには久しぶりに会う留学中の恋人が待っているというスーパーマリオ的展開であった。

話を現在に戻そう。トイレでいつもどおり良心の呵責に苦しみつつ、「だけどちゃんと18切符持ってるし。指定席座らなくても立つし。それって誰の迷惑でもないし」などと自己正当化しつつ、イライラして、ポケットからiriverなるMP3プレーヤーを取り出し、ジョアン・ジルベルトを大音量で流しながら尾崎喜八を読むが、ジョアンのベルベットボイスも喜八の蓼科ラブも僕を癒しはしない。がたんがたんがたんと電車は揺れる。すると、こんこんとノックの音がする。キターと思う。車掌か。そうかや
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