ムーンライトながらノート/渡邉建志
 
いのだから、突然現われた僕を怪しむに違いない。そういうわけで、このトイレから出るタイミングはまさに「賭け」であり、非常にドキドキするのである。銃弾行き交う戦場に身を投げ出すような覚悟である。手元の時刻表を読むが、イタリアの電車と言うのははげしく時間にルーズなので(そのために飛行機を乗り過ごしそうになったことがある)(それもいちいち理由は言うのだが、その理由が納得できない)、時刻表も信頼できない。覚悟を決めて、時刻表の2分前に出たら、ちょうど客もおらず、車掌もいなかった。しばらくドアの前にいると、V駅で降りる客が現われ始めた。電車はV駅に着き、僕は急いで電車を駆け下り、ホームを走り抜けた。まだ、ドキ
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