ムーンライトながらノート/渡邉建志
何回も通る車掌氏は怪しんで、ノックしたりするだろう。ひょっとするとこじ開けるかもしれない。まさかそんなことはしないだろうとも思うが、しかしそれぐらいしないと、トイレ無賃乗車が世にはびこることになるだろう。あるいは、トイレの中にずっと隠れ続けるなんてダサいことは流行らないから大丈夫なのか。
僕自身、トイレ無賃乗車をしたことがある。1年前、アレッツォからヴィチェンツァへ向かう電車だった。たしか、わざとではなく、『気がつかなかった』の類だったと思う。乗車券は持っていたのだが、特急券がなかったのだ。そしてその電車が特急だと「知らなかった」という設定である。そして、それが特急だと「気付いて」、いそいで
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