ムーンライトながらノート/渡邉建志
いでトイレに駆け込んだのだった。バックパックを背負い。トイレの中にずっと居続けるのは、かなりのスリルだった。まず言葉が通じないから、ばれたら一大事だ。たぶん10倍ぐらい取られる。そもそも金がないから無賃乗車するわけで、そこを罰金取られるのはかなり痛い。そんなことを考えながら1時間ほどトイレでドキドキし続けるのは、精神衛生に非常に悪い。史上最悪の犯罪者になったような気分だ。「良心の呵責」に苦しんで、とりあえず1分ほどトイレから出て、「トイレに隠れ続けているわけではなく、偶然便意が続くからトイレに入るのだよ(!)」ということを誰にともなくアピールする。もちろん誰に対してでもない。見られていたら困るのだ
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