法学/葉leaf
 
第一章 権利

 君をみたす酸素分子はさだめられた方角を見失うとき、霧となる。池のおもてで朝日が砕かれてゆくのを、君は燃える指でなぞる。どこまでが記憶なのだろうかと、問うこともしない。背後にあいた小さな穴へと、君の体は奪われてゆきそうだ。
 ひとつひとつの霧分子の硬い表面には権利が駆けめぐっている。創世記の時代には、権利は太陽の核内のねじれた闇のなかで、憂鬱に葉を茂らせていた。太陽が天球へとしずくを落としはじめると、権利は種となり、地上の分子たちの喜びの籠に下獄した。
 たとえば、風景のなかに夢を編みこんでゆく権利。君の瞳へと漂着した権利は、脱ぎ棄てられた靴から垂直になまめく女の体を造形す
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