無題/菅原 夕輝
 

揺れる地面に怯えている間に
虫の囀(さえず)りが 気付かないまま途絶えていた

人形はいつか捨てられる
捨てられるために命を与えられ
捨てるために生き長らえる
つぶらな瞳は 最後までありのままの醜さを映す
それでも 人形は信じただろうか
明日もやさしい腕に抱かれる事を
それとも 解ってしまっただろうか
必要とされたのは ほんの一瞬
あの透明な夏の日 視線がぶつかった時だけだったと

悲しくとも
涙など とうに涸(か)れ果ててしまったのだ

気の抜けた炭酸水が 小さな冷蔵庫の隅で
忘れられたまま黙りこくっている
いらないのなら そうだと 早く言い放
[次のページ]
戻る   Point(2)