無題/菅原 夕輝
揺れる地面に怯えている間に
虫の囀(さえず)りが 気付かないまま途絶えていた
人形はいつか捨てられる
捨てられるために命を与えられ
捨てるために生き長らえる
つぶらな瞳は 最後までありのままの醜さを映す
それでも 人形は信じただろうか
明日もやさしい腕に抱かれる事を
それとも 解ってしまっただろうか
必要とされたのは ほんの一瞬
あの透明な夏の日 視線がぶつかった時だけだったと
悲しくとも
涙など とうに涸(か)れ果ててしまったのだ
気の抜けた炭酸水が 小さな冷蔵庫の隅で
忘れられたまま黙りこくっている
いらないのなら そうだと 早く言い放
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