雨の山道/渡邉建志
 
てきた
まだ部屋に前の人がいるから
ここで待っている、と言った

はやくチェロを弾かなきゃ
はやくチェロを弾かなきゃ
僕は焦っている

振り返れば
かつらをかぶった三人の子供が
ふわふわ棒を振って踊っている
金髪の三人の少年が
それを見て冷やかしながら
一緒に踊っている
不思議な音楽が流れている

象に乗った二十二歳の女の子が
ぴっちりした白黒の横縞のTシャツを着て
これからイギリスに行くところだと言う
荷物は何も持っていなくて
トイレはどうするのだろうと僕は思う

それから 海を渡っていく象と女の子を
瞼の裏に見る

気が付けばもう一人の僕が

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