雨の山道/渡邉建志
一単語ずつ話す象の上に乗っている
象は苦労しながら、鼻と前足でドアを開けることができる
少し痛そうではある
僕たちは街のような大邸宅を進んでいく
食事したりお酒を飲んだりしている人々の視線を浴びながら
僕たちは部屋を抜け庭を抜け
ヨーロッパ人の家の中庭につく
男が出てきて象とキスする
「遠くからよく来たね」と男が言う
「お久しぶり」と象が言う
男は僕にもキスしようとする
これがヨーロッパ風なのだと
僕は知っている
象が「嫌がっちゃ、だめ」と言う
余計なことだ
僕らはキスを交わした
ひげの匂いがした
男と僕と象は家に入って
いろりを囲みながら英語で商談をした
金髪の少年が現れて
見てていいですか、と言った
男はまじめな顔で、英語だぞと言った
少年は、じゃ分かんないやと言って
また、ふわふわ棒の子供たちを
冷やかしに行った
もう一人の僕はそこでまだ
チェロを弾かなきゃ
チェロを弾かなきゃ
と
焦っていた
外はまだ
雨が降っていた
2002.11.25
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