走る羊/岡部淳太郎
 
んでゆく

夜の中を
それが夜であるがゆえに
羊たちは走る
帰るところなく
走ることこそがただひとつの真実
忘れるために
忘れられるために
群衆として
群衆の中のひとりとして
目立たないひとりとしての事実
泣くわけでもなく
恨むわけでもなく
ただ闇雲に走る
ただそれだけのものとして走る

  人はひとり帰るところなく横たわる
  その果てが明日の岸辺につづくことを信じるがゆえに

わけもなく
羊たちは走る
帰るところなく
羊たちは走る
驕ることのない
ただの激走その果てで
夜の野は夜の道に変り
羊たちはその中に雪崩れこんでゆく
羊の大群を乗せ
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