走る羊/岡部淳太郎
 
は山を夢に見て
また海を夢に見る
夜の穴から降りてくる絶え間ない直観に従って
足の裏と野の草との間の
快い摩擦感に酔いしれる

  人はひとり動かぬ破片として横たわる
  隣のかけらの行方を少しだけ思い煩いながら

何の感情もなく
羊たちは走る
帰るところなく
ただ走りつづけることがこの夜における使命
走るうちに羊毛はぬけ落ち
それらは地に触れると同時に
新しい小さな羊たちとして生まれ出る
そして彼等もわけのない
羊たちの群走に加わってゆく

  人はひとりたしかな肉として横たわる
  皮膚は壁となり身体のすべてがたどりつくことのない
   果てへと沈んで
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