走る羊/岡部淳太郎
は山を夢に見て
また海を夢に見る
夜の穴から降りてくる絶え間ない直観に従って
足の裏と野の草との間の
快い摩擦感に酔いしれる
人はひとり動かぬ破片として横たわる
隣のかけらの行方を少しだけ思い煩いながら
何の感情もなく
羊たちは走る
帰るところなく
ただ走りつづけることがこの夜における使命
走るうちに羊毛はぬけ落ち
それらは地に触れると同時に
新しい小さな羊たちとして生まれ出る
そして彼等もわけのない
羊たちの群走に加わってゆく
人はひとりたしかな肉として横たわる
皮膚は壁となり身体のすべてがたどりつくことのない
果てへと沈んで
[次のページ]
戻る 編 削 Point(14)