小説 『暗い海』/かのこ
 
人きりでの短いバカンス。とても気分が良かった。白いガードレールの向こうから、アクアマリンの海が覗けた。熱い砂浜に冷たい海の中、一頭のイルカと戯れている僕。自分を失くさずに、自分を脱ぎ捨てた僕がそこにいた。
昔の知人たちは、僕という人間を数十秒かけてやっと思い出し、驚きの声をあげる。あんなに地味で冴えなかったやつが、大人になって社会的にも個人的にも理想とされるような人間になっていることに。そして彼らは、悔しさや疑念の混じった気持ちで、やはり僕のことを少し軽蔑するのであった。
アクアマリンの海に夜が訪れようとしている。僕はまた少し、僕を見失いそうになる。もう帰ろうかと思ったその時、暗い海の浅瀬に一
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