小説 『暗い海』/かのこ
 
に一艘のボートか何かが引っかかって揺れているのが見えた。近付いて見てみると、それはボートではなく、イルカだった。昼間、一緒に泳いでくれたイルカだ。僕は濡れたその背を撫でて、泣いた。その時、やっと泣いた。イルカになりたいと強く思った。暗い海にうまく同化できずに、それでも乾いていく背をずっとさすっていた。イルカに、なりたかった。

 目が覚めると、そこには波の音も笑い声もなかった。日常の音があった。僕を笑う声は、もう僕の前からみんな消え去ったように思えた。
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