小説 『暗い海』/かのこ
僕は何も考えず、そこで下車した。
どうやらそこは海沿いの町のようだった。駅名の書かれた看板は潮風にさらされ端の方が錆びていた。僕は風の吹いてくる方向に歩いていったのだが、そうするとすぐに波の音が近付いてきた。転々とある閉まりかけの小さな雑貨店などがやけに物静かで、それは日常からかけ離れた世界みたいだった。辺りはだんだん暗くなって、少し寒くもなってきた。だけど僕は歩いた。
冷たい波の打ち付ける、目の前には無数の黒いテトラポット。暗い海。辿り着いたそこには何もなかった。
僕は知っている。本当は、道の途中で倒れて歩けなくなっても、誰も何も言わないこと。ぐったりと動かなくなった僕の体を、誰しもが何食
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