小説 『暗い海』/かのこ
朝食を取り、満員電車に乗って通勤、仕事をして家に帰り夕食を取りテレビを見て寝る。それだけだ。何の夢も見なかった。
「辞めて頂きたい」と言われた。ある日、突然にだ。だけどその時も僕は確かに無感動で、抑揚のない声で「わかりました。」と答えた。その様があまりに惨めに見えたのだろうか、部長は申し訳なさそうに「君が悪いわけではないのだよ。ただ不景気で・・・」と弁解し始めるのだった。だけどそれはやはり僕にではない。ヒクヒクと込み上げてくる奇妙な笑いが止まなかった。
その日の帰り道、僕はいつもの駅で降りられなかった。何故だかわからないが、電車に揺られて小一時間、見知らぬ小さな田舎の駅に辿り着いた。僕は
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