俵松シゲジロウの倦怠/みつべえ
 
スとは松戸という名前の小学校教師の渾名。小学生時代のコータの担任だった。散々手を焼かせて愛想をつかされた。
 コータは例の運転手には関心がないようだった。弥次馬の中に顔見知りを探したり、自動車の数をかぞえたりして喜んでいる。
 トモコはバスの運転手が気になって仕方がない。その方ばかりに目が行く。
 運転手は口許を囲むように両の手の平を頬の辺りに立てた。内緒話をするときの仕種。そして、しきりに頷いたり首を振ったりする。
 やっぱり変だ、とトモコは思った。あれではまるで販売機に囁いているみたいだ。まさか機械に向かって歯を緩めるように説得しているわけではないだろうに。
「おっ、何だ? あの火炎
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