俵松シゲジロウの倦怠/みつべえ
 
思い切って幹に取り付いた。最初の枝を掴んですぐに身体を持ち上げた。今でこそオシトヤカ風だが、小さいころは野山を駆け巡ったものだ。とくに木登りは大好きだった。たちまち二番目の枝の上に立った。
「俺の手につかまれ!」
 コータがもう一段高い場所から手を伸ばした。右手を差し出すと、その手首をがしっと掴まれた。力強く巨大な手だった。いきなり身体が浮いて引き上げられた。
「ありがとう。相変わらずバカ力ね」
 トモコはコータと同じ枝の上に立ち、幹に両手を当ててバランスを取ろうとした。けれど、その必要はなかった。コータの右腕が彼女を支えるように背中をまわって小枝を掴んでいた。少女の頬がまた朱に染まった。
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