俵松シゲジロウの倦怠/みつべえ
、なんとか人垣の中に入ろうと「スイマセン作戦」を展開するが誰も道を譲ってくれない。隙間なくびっしりと人の壁である。でも運転手がこの中に入ったのを確かに見た。どこかに突破口はないものかと辺りをウロウロ歩いた。学校に行くことなどすっかり忘れていた。
人垣に沿って酒屋と隣家の間に立つ栗の木の下に来た時、しきりに自分の名を呼ぶ声に気づいた。声は頭上から聞こえる。コータの声だ。見上げるとコータが大枝の上から彼女に手を振っている。
「見たいんだろ? 登って来いよ、この弥次馬め!」
えっ、この恰好で木登りしろって言うの。コートの下はセーラー服だ。トモコは一瞬ためらったが、木の根元にカバンを置くと、思い
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