散文詩に梱包されて/岡部淳太郎
 
僕は小さな音楽会に出かけて行った 乾いたドアにとざされた演奏室 固い椅子に腰かける冷酷なピアニスト そこでは眠りから拒絶された黒い夢がだまって諸君に一切の武器を引き渡す 武装がゆるされた 人よ 愛せ 強く生を愛せ

 ドアの外で 新しいガアゼを匂わせて雨は再び街角を曲り 港へ 薄明の港から暗黒の海へ 星かげなき幻影の世界へ
 唇は濡れた やがて僕の手は乾いた さよなら 女は僕とすれちがって出ていった ドアの外へ ひとりの背の高い男が雨に濡れながら僕を待っている 生きるためにか死ぬためにか ドアを隔てて僕らは弾丸を装填する
 祝福せよ 孤独な僕らにも敵が現われた 鏡の中で僕の面貌は一変する 
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